(どうして―――――?)
下肢に焼き付く様な痛みが。下腹部に熱い流動体が侵食するのを感じながら、ルークは意識を手放し、疑問の思考を閉ざした。
伸ばした手は、太陽の金糸には届かなかった。
新月が贈る白昼夢
留める事が不可能な純粋な、只純粋な砂粒が零れ落ちて行く感覚だった。
失って、眼に映すのが容易で無くなって初めて気が付いた。
いや、本当はずっと気付いていた。
只、人一倍強い自制心が零れるのを必死に押さえていただけだった。
だからそのたがが外れた瞬間溢れ出した。
朱い神の子に抱いていた想いが。狂愛と呼ぶに相応しい愛情が。
再会した際、其の想いが確かな想いだという事を解した。
自覚したら、色々なものが欲しくなった。
彼女のものが。
隣。
声。
華奢な手が生み出す温もり。
晒された細腰に腕を廻す権利。
淡い桜色の唇。
溶ける熱い熱。
果てには、己が抱くものと同様のものを求める様になった。
少なくとも、親愛に近しいものであろうが好かれている自信があった。
だから打算して一時傍を離れる事を選んだ。
恰も失望し、見放す様な素振りで。
そうする事で、ルークも気付くかも知れない。
七年傍に居た己の存在の大きさを。
そうする事で、ルークも想ってくれるかもしれない。
ただ一人見捨てず待ち続け、認める自分を。
だが、予言に縛られぬ、ローレライの加護と愛を受けた其の身に宿す力は偉大で。
只の人間である自分が其の運命を、感情を、思いのまま操る事など不可能だという事を漸く気付かされた。
「遅いぞ。ルーク」
「ガイ!?」
望んだ姿が、愛する甘い声が耳に届く。
それは驚きに上擦っていたが、悦を含んでいた。
それに満足を覚え、折り畳んだ長い肢を立てる。
その際、気付いた。
愛する其の身の傍らに、自分が欲する居場所に、ルークの朱を引き立てる僅かに差す日を浴びた鈍色の髪を持つ存在に。
「ティ…ア?」
「ええ、何?」
自分の思惑では、自他に厳しいティアはルークの行動全てに失望し、ユリアシティで別れる筈であった。
彼女の性格を考えるとその筋書きが一番しっくりくる。
だが、何故か彼女は此処に居る。
想定外の状況に困惑の色を顔に浮かべると、ルークが薄い唇を開いた。
「ティアは…俺のこと見ていてくれるって。俺がする事を全部見ていてくれるって…だから、一緒にいてくれるって……」
「ええ。見ているわ」
ルークのしどろもどろの説明に、ティアの無表情だった顔に感情が現れる。
それは僅かながらも慈しみを帯びていて。
ティアのその態にも驚かされたが、そんな事は直ぐに思考から消え去った。
ルークの後ろ姿を見る事で。
「るー、く…?お前、その……髪」
愛するルークの、愛しい朱の長い髪は肩口から先が無くなっていた。
「ああ。この髪?切ったんだ」
ルークの声が遠くで聞こえる。
「これ位の長さなら自分で手入れ出来るし、もうガイの手を借りなくても平気だから。気にすんなよな」
誘拐事件の後七年間、ルークは髪を伸ばしてきた。
「誓いを立てる為に、切ったんだ。ティアや皆に誓う為に」
ルークは振り返り、背後のティアと視線を合わす。
その言葉に、視線に先程の表情でティアは頷き、肯定を返す。
「俺はもう間違えない。世界に誓うよ」
自分と過ごして来た、七年間。
「もちろん、ガイにも、―――」
否定された気がした。
「ティアっ!どうしてガイっ!!」
気が付くと、鮮やかな赤が視界を占めていた。
己の利き腕に握られた抜き身の刀も、同じ色彩を放っている。
ティアの血だった。
だけど今の自分にはどうでも良い事だった。
(ああ、綺麗だな)
床に広がった赤が、嘗て愛しいルークが携えていた朱に似ていて嬉しくなった。
柔らかな腰の曲線に沿って、地に付き流れるあの大好きな朱に。
今は無い、それを与える事が出来て嬉しくなる。
優しく笑むと、ルークの悲痛の叫びに動揺から来る困惑の色が濃くなる。
「綺麗だな」
呆然とする彼女にそれだけ応ずると、その腕を引き抱き締め、口に含んだ薬剤を深い口付けで与えた。
驚愕に開かれた翡翠に、蒼い瞳を弧に曲げ微笑を返してやる。
そのまま崩れた華奢な身体を抱き上げると、血に濡れたユリアの聖女に背を向け来た道を歩み出した。
大切な宝物をその腕に得て。
ルークが重い瞼を開けると見た事の無い景色が広がっていた。
その中で唯一見知った色を捉える。
窓から注ぐ同色の光を浴び、神々しいまでに輝く金色。
大好きな、大好きな金色。
ずっと、自分を見守って来てくれた優しい色を持つ大好きな人。
其の人の発する柔らかな色が、今夜は何故かとても悲しかった。
(何…故…?)
自分の内に問いかけていると、目を開けた自分に気付いたのか望んだ其の姿が近付いてくる。
其の足音に覚醒を促され、恐れの故を知る。
落ち着いた色合いを基調としている服に在る、見慣れぬ、刺々しい原色が緑眼に映る。
其れは自分を見守ってくれると約束してくれた、美しく優しい友人の流した赤だった。
「あっ、ああ…い、嫌あああああああ!!」
「!!どうした?ルーク。何処か痛むのか?」
突然叫びを上げたルークに歩む歩が早まる。
横になる寝台の傍に屈み、其の華奢な身体を検め、傷一つ無い愛しい体躯を確認し安堵の息を吐く。
「外傷は、無いみたいだな。良かった、お前が無事で」
発する者の慈しみを孕んだ言葉。
が、其れはルークの耳に入ってなかった。
(痛い、痛い、痛い痛い!どうして、……どうして!!)
ルークは身に感じている筈の無い、胸の、心の痛みに、神経の痛みにもがき苦しんでいた。
まるで在る筈の無いその部分を鋭い刃で抉り取られた様な感覚。
只只もう見える事が叶わないであろう、鈍色の生糸の髪に、海の深い青の瞳に焦がれ、常時傍に居る男が怖くて怖くて堪らなかった。
それに自律神経に己を預け、声を張り上げ泣いた。
「どう…して、ど、うして…ガイっ!!ティア!てぃ、あぁぁ!!」
「ルーク…」
「嫌だあああ!ティア、ティア!!」
最期に交わった青が悲しい。
それ以外何も考える事が出来なくなり、ルークは錯乱した。
彼女の口から発せられる、名がとても耳障りに感じる。
何時もなら愛しいと感じる甘い声も、他者の名を呼ぶために使われると憎く感じる。
頭に血が上るのを感じながら静止の声を掛けてみた。
「ルーク、ルーク」
「ティアあああ!!嫌だああ!行かないでぇえ!」
何度も発せられるそれに、苦痛と不快感を得る。
まるで自分は必要無いと言われている様な錯覚さえ覚える。
だが今の自分にはその想像が現実か幻かも判断する思考も無かった。
只、其の翡翠を独占したいという思いだけが己の内で明確だった。
「やぁっ…ティっ!!」
揺れ、自分の視線から逃げ惑うルークの顎を捕らえると、尚も他者の名を発そうとする唇に噛み付いた。
盛大に開かれた口内に侵入することは容易く、直ぐに深く交わる事が可能となった。
上顎と歯茎を舐め上げ、舌を執拗に蹂躙する。
「う…ん、んん…はぁ、ん」
己の施す行いに驚愕の為にか、開いた緑眼が蹂躙者の姿を映す。
酸素を求めて、苦しげに漏れる吐息。
それに僅かに混じる甘い声。
ルークのその所作に底知れない充足を感じる。
今彼女の目には自分しか映っていない。
彼女の世界には自分しかいない。
なんで気付かなかったのだろう。
こんなにも簡単にルークの内を自分で満たせる方法に。
こうすれば、彼女をもっと早くに自分のものにすることが可能だったのに。
己の頭の廻ら無さを嘲笑しつつ、一度唇を離す。
「ルーク…」
二人の間を伝う銀糸を拭い取る事もせず、手を伸ばし露出の高い衣服を脱がしにかかる。
早速自分しか見えていないルークを愛おしく思い、事を進めようと手を伸ばす、が。
「やぁぁあ、嫌ぁ、ティアぁ、ティアああ!!」
己の名を象ると思っていた唇から落ちるのは、己が絶った気高い命の名。
それが嘗て無い怒りを起こす。
こんな感情が自分の中に存在していたことを驚く程の。
怒気だけじゃ無い。
それは同時に悲愴、恋情が混み合っている。
こんな感情知らない、分からない。混乱の淵に落ちる。
只、解っているのは、己が欲しているということ。
ルークの愛情を。
どんな形でもいい。
七年かけて熟成されたその想いを受け入れて欲しかった。
そうしなければ。
何かを求めて空を彷徨う細腕を容易に捕らえると、それを純白のシーツに沈める。
尚も定まらぬ視線と顎を強引に捕らえると、強くその淡い唇を求め塞いだ。
口付けたまま、空いた手で脱がしかけた服を剥ぐと、現れた乳房に手を這わしす。
己の手に吸い付く白い柔肌。
初めて味わう愛しい女性の胸の柔らかな感触。
堪らない心持ちになる。
溺れるのにそう時間はかからなかった。
全部が、全てが欲しくて。ルークの身体に舌を這わす。
まだ誰も暴いたことのない、純潔の蕾にも。
丹念に慣らすと、僅かながらも蜜を零す。
それが愛おしくて。
未だその口から零れるのは己の名では無く、恐怖を入り混ぜた嬌声だったけど。
それでも今はその体躯が発する温もりが欲しかった。
「!!…あっ、いやっ。が、いっ!ガイ!!やぁぁぁあああああ!!」
唾液と僅かな愛液で濡れそぼった秘部に、己の欲に猛った自身を宛がう。
途端、濁っていた瞳に光が戻り、揺らいでいた視線が定まる。碧と翠の瞳が逢う。
やっと俺の事見てくれたと残酷までに綺麗な笑みを贈ると、ルークの中に一気に欲を突き挿れた。
布を引き裂く様な悲痛な声が、他者の血で紅に色付いた唇から発せられる。
「くっ。ルー、ク…いいよ…はぁ、あぁ、はっ」
「やぁっ、っつ。痛っ!がいっ、ガイ!!いっ…あぁ、っん、痛、いよ、がい」
熱く、柔らかな肉が本人の意思と反して、雄に吸い付くように絡み付き、孕みを促してくる。それに口角を僅かに歪ませた。
彼女は、彼女の身体は、自分を求めている。
処女の締め付けに射精を耐えながら間を空けず、早速ゆっくりと律動を始めると、初めて感じる身を蝕む強い快感。
それは男の己が喘ぎを上げる程で。
この感覚を共有したくて、早く感じられるように成るよう、出来るだけ優しくルークを暴き、良い箇所を探す。
「いっ痛、あぁ…はあ、あ、あ!が、いぃ…がいっ」
ルークを拘束する鎖の金属音。
ぎしぎしと無機質な音を発てる寝台。
交わる者の喘ぎと息使い。
繋がる箇所からの、互いのものが混じった水音。
それらが空間と己の全てを満たしてくれた。
視線を下肢に移すと、己の先走りの液と愛液に薄まった紅い破瓜の証が結合部から流れ出し、シーツを色付けていた。
手に入れた、手に入れた。
七年間欲していたものを手に入れた事を示す綺麗な紅が悦を与えてくれる。
「やぁ、いっ、んん、ああ…、はあ、んっ…が、い、やあぁぁぁあ!」
「んっ、…愛してる、愛し、てるよ、ルーク…はぁ、…ん。気持ち、いいよ」
先程まで僅かな抵抗を見せていた肢体は、苦痛と快楽による疲労に力が抜け切り、今では己の腰使いに従順にシーツの上で踊
っていた。
支配欲が満たされる。
限界を感じ、その細腰に手を添え引き寄せ交わりを深くし、更に強く激しく己をを打ち付ける。
それにルークも絶頂が近いのか、震えを大きくし、甘みを含んだ甲高い嬌声を上げている。
発せられる言葉は変わらず行為の否定だが。
「はぁっ、はっ、はぁ…駄目、だ。ルー、クの中、良、過ぎ。はっ、も、出すから」
「いやぁ、はっ、んん、嫌ぁっ!が、い、やめてぇぇぇぇ!」
尚も己を拒否するルークに苛立ち、黒いものが心内でざわめく。
嗜虐心。
それに従い、初めての女性経験に、初めての愛しい人の中に、膨れ上がった欲をぎりぎりまで抜くと、強く押し入れた。
「いくっ…!」
「やああああああぁ!!」
深く突き立てたそれに子宮を叩かれ、ルークは絶頂を向かえる。
膣を収縮させ命の生産を促す動きに従い、初めてルークの体内に精を注いだ。
それに感じた事の無い充足を身体は得る。
思いのたけだけ白濁をまだ幼い肢体に植え付けた後、この上ない口付けを贈った。
体を繋げたまま意識を飛ばした裸体を抱き上げ、己の膝の上に乗せる。
深くなった交わりに口角を上げ、其の身を伝う汗を舐め上げた。
「お前を、愛しているからだよ」
気を失う寸前に、唇だけで綴った疑問に答えを与える。
慈しんだ綺麗な表情を浮かべ、随意で無い呻きを零す彼女の腰と背に腕を添えると、再びその緑眼に自分を映してくれる事を願い、貫き始めた。
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ダメじゃん!!
2007.12.31